塩田平の文化と歴史

● 前山寺(ぜんさんじ) 木鼻


 前山寺三重塔、第一層の四つの隅柱の上部をみると妙なかたちの彫刻が、二方につき出しているのが見える。
 この隅の柱の上につき出している彫刻のことを「木鼻」という。「はな」というのは”はな先”の”はな”でつき出したところをいう。顔の中でつき出したところは「鼻」というし、木のつき出したところは「木鼻」である。
 ところで、「禅宗様」では「貫」が柱を貫いているのだから、1番外側の柱では、この「貫」が外へ突き出してしまう。そのつき出した部分に彫刻を施して、建築の飾りとするのである。
 はじめは、かんたんな繰形(1種の曲線)の「木鼻」であった。この塔の二層・三層の「木鼻」もその1例と思えばよい。ところが、室町時代に入ると、その「木鼻」がだんだん複雑な彫刻になっていって、渦をつけたり、動物や植物のかたちに変化していく。
 ところで、この前山寺三重塔の初層の隅柱の上には、写真のような「木鼻」がある。
 左の方の口のように開いたところに、牙のような形がつくられ、また上端には、瞳の入った目が刻まれているのがわかる。つまり単なる曲線ではなく、象のかたちにかわっていくはじめのころのもの−室町初期の特徴を示す貴重な造形として知られている。
 目の位置が高くなりすぎ、脳のある頭部が低くなったため”低脳の木鼻”という愛称がつけられた。(この愛称はずいふん前からあり、このごろのものではない。)何百年の年齢を経たこの木鼻は、ユーモラスな別名にもかかわらず、何か犯しがたい品位がある。上唇の先がかけているのも、深い木目のしわとともに、かえっていい難い魅力をつくり出しているようだ。

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