塩田平の文化と歴史

● 前山寺(ぜんさんじ) ″未完成″とは


 前山寺三重塔は”未完成”の塔であるという。それでは、その”未完成”とは、どこのところでわかるのだろう。
 まず写真の第二層をみてほしい、柱が4本ある。その4本の柱をみると、どの柱も下の方から、長い板のような角材がつき出しているのに気づかれるだろう。これは「貫」というものだが、実は縁をつけるために突き出したので、本来ならば、この上に板をはって縁とし、「勾欄」(手すり)をつける予定であったのである(第一層には、縁も勾欄もつけてある)。ところが、何かの事情があったか、ここには、それがつけてない。よくみると第三層も、このようにしてある。つまり第二・第三層は、縁や「勾欄」がない、それに窓もない。建築形式からいう限りは”未完成”というより他にいいようがないのだ。
 なおこの柱の上の方をみると、どの柱も両側から切りこみがあることがわかる。これも「長押」をつけるための切りこみのあとである。
 そればかりではない。今度は下部の写真を注意してみよう。柱の上の組物の一部だが、ちょうど中央に当るところにます形をしたもの−これを「ます」という−が三つ重なっている。そして一番下の「ます」の下面に四角い穴があけてあるのがわかるだろう。本来ならこの「ます」は上からの重みをうけるものだから、三つ重ねた一番下に縦の材を入れなければ、重みをうけることができない。
 その縦の材を「束」というが、この三つ重ねの「ます」の下にはそれがない。しかし入れるつもりで穴だけあけてある。その隣りをみてもそうなっている。実は塔全体に「束」というものがないのである。
 これはどういうことだろう。この塔だけなら”未完成”の一部といってのけられるが、実は、国分寺の塔もそうなっている。佐久の新海神社の塔もそうだ。
 そこで信濃の一つの特色かという説も出たが、注意してあるいてみると必ずしも信濃ばかりではない。甲斐の武田八幡宮の社殿にもこの様式があり、伊予松山の石手寺にもこの様式が使われている。
 前山寺特有の”未完成”ではなく、全国的に、通用した一つの形式化した様式ではなかったかと思われるのである。

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